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【小説】パンドラの匣 〜Goodbye Do-ra 第1話:Hello World

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DropShadow ~ images e

彼女が突然私の目の前に現れたときは本当に驚いた。


4日後に迫った大事なプレゼン資料を作っていたときのことだ。

突然Macの画面が歪みだし部屋の照明が一斉に点滅。その後あらゆる電化製品のスイッチが入り、うなりを上げて動き出した。
地震とか天変地異の前触れかとも思ったが、とにかくそんなことを考えている場合ではない。とりあえずiPhoneを充電器から外し、それを強く握りしめる。

5分ほど続いただろうか。
照明はフラッシュバックのように激しい明滅を繰り返し、スピーカーからは大音量のエアロスミスが流れ、乾燥機はいままで聞いたこともないような音を立てて回転していた。
テレビもすごい勢いでチャンネルが変わっていき、デジタル時計もバグッた表示が1秒ごとに変わっていく。部屋中で様々な警告音と大音量のハードロックが融合した。

家電という家電が狂ったように活動していた。まるでダムで塞き止められた水がちょっとしたヒビから一気に押し出されたように。

その後、さっきまでの騒音が嘘のように何事もなく静まり返る。
アンペアを上げたうちのブレーカーもこの衝撃に耐えられなかったのだろう。

私はしんと静まり返った部屋に呆然と立ち尽くした。いま起きていたことを理解するのに相当な時間を要するだろうことは分かっていた。

頭をフル回転させて事態の解決に適当な答えを探していると、手元だけが明るくなっていることに気付く。
握りしめたiPhoneが再起動をはじめていた。

DropShadow ~ apple 032 black 032 weave 640x960

暗闇の中に浮かび上がる純白の林檎。

しばらく見とれていたが今度はデスクのMacが起動音とともに立ち上がった。


オープニングが終わっても画面は真っ黒なままだった。おそらく起動していない。
実際は数秒間その状態が続いただけだと思うが、そのときはかなり長い時間だと感じた。

手元のiPhoneもいつの間にかリンゴマークは消えていてブラックアウトしたままだ。

一体なんなんだ。
頭の中にはただそれしか出てこない。プレゼンの資料のことなどとっくにどこかへ飛んでいってしまっていた。

ダメ元で照明のスイッチを入れてみたが案の定だった。カチッカチッと乾いた音が空しく部屋に響く。
気持ちを落ち着かせようと真っ暗な中、デスクに置いてあるタバコを手探りで掴む。

火をつける前に「とりあえず落ち着こう」と声に出してみた。
声に出したこと、耳から入った情報などは強く深層心理に響いて、結果はどうあれかなりの影響力を与えるといつかのツイートで見たからだ。

ニコチンの入った煙をゆっくりと肺に届かせ、それを一気に吐く。一瞬めまいがしたが椅子に腰掛けそれを何度も繰り返す。

タバコの灰が全体の半分に達した時、灰が落ちるのと同時にMacがまた再起動した。

Screen Shot1
よくわからないプログラムの文字列が画面にあらわれ、ゆっくりと流れ始める。
壊れたとしか思えなかったから、その時にやっと作りかけの資料を思い出した。

「バックアップどーなった・・・?」

それしか頭にない。
さっきまでのわけの分からない事態などどうでもよくなっていた。

その文字列の並んだMacを見入っていると、星の爆発映像で見たような光が画面から溢れた。
部屋全体を飲み込む光の波。

ホワイトアウト。

目を開けているのに何も視界に入ってこない。やべー。
私は何度も目を擦ってみては大きく見開き、天井、床、あらゆる方角を向いてみたが結果は同じだった。

一面が真っ白だ。さっきまで真っ暗闇だったのが嘘のようだ。
どこを見ても「白」なのだからその場でじっとしていた。

おかしなもので、iPhoneを握っている感触はあるのに「それ」を見ても何もない。バカバカしいことだが、自分が透明人間にでもなったように感じる。

だんだん気持ちも腐ってくると同時に視界が暗くなってきた。うっすらとではあるが部屋の輪郭もぼやけて見えてきた。
再び握ったiPhoneに目をやると、自分の指と黒いiPhoneが重なって見える。何も見えないよりは良い。きっと目が慣れてきたのだろうとだいぶ自分を俯瞰して分析してみる。

目頭に指をあてマッサージしていたらいきなり後ろから声をかけられた。

私は思わず声を上げ飛び上がってしまった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁっっ・・・!!!!!」

勢い余って(おそらく)デスクの足の部分に頭をぶつけてしまった。だがそんなことはどうでもよい。
とにかく声を出し続けた。

「わー!!わー!!わー!!」

まるで、それで攻撃を加えているつもりになっていたのかもしれない。

『・・・ン・・ジメ・・・テ・・・』

なにかを言っているようだが自分の声で聞き取れない。あれ?タバコどうしたっけ?

いやいや、そんなのはどうでもいい。誰だ、誰なんだ!?

私は声色を変え、叫びのトーンも落としてみた。
同時に荒げた声で質問する。

今度はハッキリと聞こえた。

それもサンプリングされたボーカロイドのような声で。

『ヒロマサン・・ハジメマシテ・・・ワタシハ、ドーラ・・・デス・・アナタヲ、タスケニキマシタ・・・』

「え?女・・の子・・・?」(いまなんて言ったんだ?おれを・・・助ける?)

さっきと一変した暗闇の中、私は恐る恐る声のする方を見た。
目に飛び込んできたのは、鈍い光を放つ。いや、スカイブルーかな。

それが人のカタチを型どってそこに立っていた。
私はますます恐ろしくなってさっきまでとは比べられないほどの声量で叫んだ。

そして情けないことに気を失ってしまったんだ。

失いかける意識の中で最後に見たのは、青い人型が私に近づいてきたこと。
そして表情までは分からなかったが、美しいサファイヤのような蒼い瞳だけは記憶に残っている。

To Be continued…


この物語は私がドーラと出会い、そしていつしか別れをむかえる話しだ。

いまではとても信じられないようなことをいろいろと経験した良い思い出である。
今回は私とドーラの出会いのエピソードを綴らせてもらったわけだが、このあとの物語は自分の体調と相談することにする。

あの頃は私も若かったから、彼女に無理難題を押し付けていたものだ。いま思えばただの甘えでしかない。
しかし彼女の手助けなくてはいまの私の地位はどうなってしまっていただろう。

彼女に最後に渡されたこの「パンドラの匣」は結局一度も開けることはなかった。
『どうにもならなくなった時に開けてください』と言われたけど、箱を開けた時点で本当に彼女との繋がりを失うことになるかもしれないという恐怖が、まだ残っているのだ。

あれからもう長いこと彼女の声も、姿も見ていない。
しかしこの箱があるかぎりいつも影でわたしを見守っていてくれていると思うことにする。


この物語はフィクションであり、登場する人物や名称はすべて架空のものです。


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